ジェラルド・カーシュ『壜の中の手記』(角川文庫)

message in a bottle, sea, nature 小説
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小説の魔術師が紡ぐ奇想天外な物語

ジェラルド・カーシュはイギリス出身の作家で、すでに半世紀前に没しているものの、彼の残した作品は今なお多くの人々を魅了しています。生前は様々な職を経たのち1930年代から執筆活動に入り、ミステリー、SF、ファンタ、ホラーなどあらゆる分野に手を染めました。ものにした作品は数千作ともいわれ、とくに短編で本領を発揮した作家です。

表題作にもなっている「瓶の中の手記」もその一つで、彼は本作でアメリカミステリー界における権威であるエドガー賞の短編賞を受賞しています。この作品は作家アンブローズ・ビアスを主人公としたある意味冒険譚ともいえるものです。ビアスは19世紀のアメリカに実在した作家、ジャーナリスト、コラムニストであり、毒舌家としても知られました。中でも、風刺的な作品「悪魔の辞典」や短編「アウル・クリーク橋の一事件」が代表作です。後世の作家たちに多大な影響を与えるほどの業績をのこしたものの、旅先のメキシコで失踪し行方不明となります。

本作はアメリカ文学史上で最大の謎とされる失踪事件に材をとり、登場人物のビアス自身がその真相を書きしるした手記という体裁をとっています。主人公がメキシコの山奥で特殊な種族の住民たちと出会い、客人としてこの世では想像もできないような歓待を受けるのですが、じつはその裏にある恐ろしい意図が隠されていたという筋立てです。

ほかにも「豚の島の女王」「黄金の河」「ねじくれた骨」「時計収集家の王」など12遍収録されていて、どれも驚くべき展開の作品がずらり。しかし、読者はそれらを単なる法螺話と一笑に付すことはできません。カーシュの魅力は、嘘のような話でも本当のことだと思わせてしまうはったりのきいた文体にあるのです。作家としてのこの大胆不敵さはおそらく、本来持ち合わせた文筆の才能に加え、多彩な経歴によって得られた経験豊富な知識によるものだと思います。

かつて、SF作家のハーラン・エリスンが「やつは魔術を使っている」と評したとされますが、まさに、ジェラルド・カーシュこそ小説の魔術師とたとえられる作家といえましょう。日本ではあまり知られていないのが残念なくらいで、ぜひとも読んで確かめていただきたい一冊です。

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